妊娠・出産・新生児*Dear Mom*
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呼吸器の構造とはたらき

呼吸運動とは、肺を膨張・縮小させて肺内の空気を交換させる運動です。
この呼吸運動は肺が自力で行う運動ではなく、肺を包んでいる胸郭と横隔膜の拡大と縮小などによって他動的に行われます。
なお、これらの胸郭・横隔膜の動きは呼吸中枢によって制御されています。
妊娠中は、増大する子宮による解剖学的な変化や基礎代謝率・ホルモンなどの変化に伴う呼吸中枢の変化により呼吸機能が変化します。

呼吸器系の解剖学的変化

胸郭は肋骨・肋間筋・横隔膜によって形成されています。
胸郭の広さや可動範囲は、換気量に影響されます。
妊娠経過に伴い、子宮は次第に上昇し、非妊時と比べて約4㎝挙上します。しかし増大した子宮の圧迫によって横隔膜の可動範囲が制限されることはなく、通常の呼吸状態での横隔膜の運動範囲はかえって非妊時に比べて約1.5㎝増大します。
妊娠中、胸郭の変形もみられ、胸部横径は約2㎝拡張し、胸囲は約6㎝増加します。肋骨の下部は平坦化し、肋骨角度は増加します。
これらの変化は子宮による圧迫がおこる前から始まってします。
胸郭の形態は、増大する子宮による機械的な圧迫が及ぶ以前の妊娠早期から変化が始まります。肋骨下角は68度から103度に増加し、胸郭の横径は2㎝、胸郭は5~7㎝大きくなります。横隔膜の位置は4㎝挙上します。

呼吸器系の内分泌学的変化

正常な呼吸運動は不随意運動です。無意識的に脳内の神経刺激が肋間筋、横隔膜などに伝わり胸郭運動がおこなわれます。
この呼吸中枢の活動を制御するもっとも重要な因子は、血液中の二酸化炭素濃度です。この濃度が高いと呼吸中枢は刺激され、低いと抑制されます。
妊娠中は基礎代謝と体表面積の増加によって、酸素消費量は非妊時に比べ約20%増加し、これに伴い二酸化炭素の産生量も増加します。
妊娠中、呼吸数には増加するプロゲステロンによるものと考えられています。その理由として、妊娠していない女性においてもプロゲステロンが分泌される黄体期には、1回換気量の増加がみられることが挙げられています。
プロゲステロンにより呼吸中枢における二酸化炭素の感受性が増加するため、1回換気量の増加が起こるといわれています。
妊娠中はこの反応が強く現れ、動脈血中の二酸化炭素分圧が1㎜Hg増加すると1回換気量は非妊時では約1.5L/分増加しますが妊娠中は4倍の約6L/分増加します。

妊娠時の肺機能

妊娠中には解剖学的、内分泌学的な変化によって肺機能の変化がおこります。
非妊時と比較して妊娠中の呼吸数には変化がみられませんが、1回換気量が約500mlから約700mlに増加するので分時換気量(1分間当たりの換気量)は約7.5ℓから約10.5ℓに増加します。この増加は妊娠初期よりみられます。
妊娠後半になると、子宮の増大による横隔膜の上昇によって肺実質の体積が減少するため、全肺気量は約4200mlから約4000mlに減少します。この減少は予備呼気量と残気量が減少し、その合計である機能的残気量が18%減少することにより起こります。
双胎では単胎よりも子宮が増大するため、機能的残気量の減少は約30%とさらに大きくなります。なお肺活量や予備吸気量には大きな変化はみられません。
また、肺のコンプライアンス(弾力性)にも変化はみられません。
1秒率(はじめの1秒間に呼気を排出させる率)は、喘息のように気道抵抗が上昇する閉塞性肺疾患では低下するため治療の目安となるもので妊娠中には気道抵抗がやや減弱し、1秒率には大きな変化がみられません。

血液ガスの変化

妊娠中の血液ガス所見の特徴としては、呼吸性のアルカローシスがあげられます。
妊娠中は二酸化炭素の産生量が増加しますが、換気量の増加によって相対的に血液中の二酸化炭素濃度は非妊時と比べ減少します。
非妊時の二酸化炭素分圧(PaCo2)35~40㎜Hgですが、妊娠時には約30㎜Hgに減少します。これによって血液ガスはアルカリ性に傾くことになりますが、腎臓での代謝的な代償が行われるため、ごく軽度のアルかローシスを呈することになります。
血液中の酸素分圧(PO2)は、換気量の増加と二酸化炭素分圧(PaCo2)の低下によって非妊時に比べ増加します。非妊時のPO2は約93㎜Hgですが、妊娠時には100~105㎜Hgに増加します。
妊娠中は酸素消費量が増加しますが、酸素の取り込み、酸素運搬能、心拍出量の増加によってそれが補われます。
正常妊娠においても、妊婦の65~70%は妊娠中に息切れや息苦しさを感じるといわれています。これは妊娠前半期に多くみられますが、この時期には子宮の増大は軽度であり、子宮の増大とは考えにくいのです。この生理的な呼吸困難は、換気量の増大のわりには二酸化炭素分圧(PaCo2)の軽度の低下にとどまることから起こるのではないかといわれています。

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