妊娠に伴う膵臓・糖代謝・血糖の変化
胎児は発育エネルギーの大部分をブドウ糖(グルコース)に依存しているため、母体は下記のように糖代謝を変化させ胎児にグルコースを優先的に供給できる仕組みをつくっています。
- 食事によってグルコースが流れ込む。
- 胎盤性ホルモン(hPLなど)が増加し、母体の筋・脂肪細胞にインスリン抵抗性をひき起こす。(特に妊娠20週以降)
- インスリン抵抗性によって母体はグルコースが取り込みにくくなる。
- 母体がグルコースを取り込みにくくなった分、胎児にグルコースが供給されるようになる。
- 胎盤性ホルモンは、脂質の分解を促進させる。これによって母体はグルコースが足りなくなった分のエネルギーを遊離脂肪酸(FFA)やグリセロールで補えるようになります。
- インスリン抵抗性によって、母体のグルコースの取り込みが低下しているのに対し、母体の膵臓は取り込みを促進させようとインスリン分泌を亢進させます。これによって高インスリン血症が生じます。
※妊娠時にインスリン抗体を引き起こす原因として、胎盤性ホルモンの他に、アディポサイトカイン分泌異常が注目されています。
妊娠に伴う膵臓の変化
妊娠中は膵液の分泌が増加し、リパーゼやトリプシン活性も上昇します。この結果、妊娠中に増加した中性脂肪がリパーゼにより分解され、生じた遊離脂肪酸により血管内皮障害が起こり、急性膵炎の一因となることがあります。
妊娠の膵内分泌機能に及ぼす影響はとくに妊娠後期になると著しく、空腹時の低血糖と高脂血症、食後の高血糖と高インスリン血症などが特徴です。これはインスリン拮抗ホルモンと母体のインスリン抵抗性の増大によるものと考えられます。
インスリン分泌の増加は、妊娠中に増加するhPL、プロラクチン、エストロゲン、プロゲステロンなどによるため、これらの変化は分娩後すみやかに非妊時の状態に回復します。
他の膵内分泌ホルモンとしては、グルカゴンやソマトスタチンは妊娠中に増加しますが、膵ポリペプチドは妊娠中に低下するといわれています。
また、膵ランゲルハンス島ではインスリンを分泌するB細胞が肥大・過形成となり、A細胞に対するB細胞の比率が増加することがしられています。
妊娠中の血糖値の変化
妊娠中の血糖値は以下のような変化が見られます。
食後血糖値
母体における妊娠後期の血糖値と血中インスリン値の日内変動は食後血糖は高くなります。
妊婦では食後高血糖と高インスリン血症が認められ、これは血糖の上昇に基づく高いインスリン反応を示しています。この原因はインスリン抵抗性の増大によるものと考えられています。
空腹時血糖
非妊娠時と妊娠後期の間には空腹時血中インスリン値に大きな相違がみられないにもかかわらず、血糖値はむしろ低下するという特徴がみられます。
妊娠後期にブドウ糖濃度の低下が起きる主な原因は、そのエネルギー源をブドウ糖に依存している胎児の糖消費が増大することと考えれます。
すなわち、妊娠後期では胎児は急速に成長し、この間、胎児の糖消費は増加するので胎盤を介して胎児にブドウ糖が供給され、食前や空腹時には血糖値が非妊時よりも低くなります。
さらに、妊娠時では胎児の存在に加えて、妊娠による生理的現象としての循環血液量の増加に基づく赤血球増加や心筋、呼吸筋でのブドウ糖消費量の増加および乳腺におけるその消費量増加などが関与しています。